粗忽堂

裁判員制度と偽証

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　数週間前の朝日の朝刊「私の視点」欄に、関東学院大学教授・元福岡高検検事長の飯田英男氏の投稿が掲載されていました。
　表題は、「裁判員制度　公判重視に検察官は転換を」と題されていました。
　そこでの論述で一つ気に掛かった部分があります。

　そこを摘示します。
　「何より裁判員の前では真実が語られ、虚偽が排除されることが肝要である。（中略）公判廷で虚偽の証言や供述がなされば、その場でうそを突き崩す尋問を的確に行う力量をつけ、偽証罪に該当すると判断すれば、断固訴追することも求められよう。」

　公判重視という点で、直ちに問題があるとは思いません。
　しかし、無罪方向の証言が気にくわないからと言って偽証罪に該当すると判断し「断固訴追する」のであれば問題です。
　検察官であれば、断固たる訴追に当たって、当該証人を逮捕拘留することもできます。

　逆に、弁護側から見て、有罪方向の証言が偽証罪に該当すると判断される場合でも、弁護側は、自ら当該証人を逮捕拘留し、訴追することはできません。
　現行法上、弁護側の手段としては、偽証罪を理由に告発して検察官の職権発動に期待するしか方法がありません。

　しかし、弁護側の告発は無罪方向であり、偽証罪の捜査を進めることは検察官側からすると公判維持に不利です。検査官同一体の原則（注）からすれば、弁護側からの偽証罪の告発を速やかに受理し、かつ、捜査を推し進めるとは考え難いのです。と言うより背理ではないかと思われます。

　私の無罪事件における偽証罪の告発についても無罪判決が確定して既に１年近くになりますが、未だにその最終的な処分の通知（刑訴法２６０条）がありません。

　裁判員制度の実施に伴い公判重視に転換するとしても、虚偽証言排除の手段が現状では不均衡ではないか。
　これが疑問です。

　どちらにしても裁判員制度は、「市民」をかなりシンドイ世界に引きずり込むことになりそうですね。